宝巌堂で、
お部屋でお食事を召し上がったことのある、
湯治で滞在のお客様と
お一人でお越しのお客様、なら
どなたもお使いになったことのある、
’お膳’
これ、実はよーーく見ると、すごいんです。
いや、よく見なくても、すぐ見ればもうわかる。
とにかく古いのです。
ボロボロです。載せちゃいます、敢えて。でも小さくっ。
品物はとてもいいんですよ~~。
木造りで本漆が塗ってあります。高そうでしょう。
なによりも軽いのです。プラスチック製と比べるとよくわかる。
嫁に来た時からずっとこれを使っていました。
そのずっと前からも使っていたので、
ざっと50年は使用しているでしょう。
その間、一度、塗りなおしを頼んだことがあったらしいけれど、
この仕事はもう二度とやりたくない、と
職人さんに言われちゃったらしい。
漆を塗る前の’掃除’がとにかく大変だったそう。
それほど年季の入ったシロモノです。
そういえば、お客さんが食べ終わったお膳に
お手紙を載せて下さったことがあったっけ。
それに書いてあった一句。
’宝巌堂
お膳の隅の
ちょっと剥げ’
どひゃー!
苦笑するしかすべがない、
いと恥ずかし。
このお膳を新しくすることは
当初からの懸案事項でした。
でも、このようなお膳は
たぶんもうありません。あってもすごく高いでしょう。
プラスチック製のはあるのですが、
木地で本漆。
もはや絶滅危惧商品なのです。
じゃぁ、どうする。
お料理を全て載せれる大きさのお盆を作るか、
いや、
お部屋のテーブルはそれを乗せるほど大きくはないし、
邪魔になる。
ならば、どうする?
そこで出てきた案は、
お部屋食を思い切ってやめる、
ということでした。
えーーっ?
今までずっとお部屋食をしてきたのに、
それが一番いいやり方なのに、
止める選択肢があるの?
そう思ってきました。
でも、思い返してみれば、
15年前、
食事処を作ることになったときも、
実はかなり悩んだのです。
今まで、
部屋食しかやったことがなかったから。
食事処をつくるなんて、考えもしなかった。
昨今、
足の悪いお客様も多く、
普段の生活も椅子の方が多い。
あるじに至っても、畳に座るのはもはや修業。
そして、なにより、
お一人さまでも
湯治滞在の方でも
お食事処を希望される方が
すこしずつ増えてきたのです。
さぁ、どうする。
こうなると連想ゲーム。
お膳をやめる
⇒お部屋食をやめる
⇒じゃ、どこで皆さんが食事するの?
⇒食事処にはもうスペースがない
⇒じゃ、食事処を広げなくては!
こんな感じで妄想が広がりました。
もちろん、
お部屋食をすべてやめるつもりはありません。
ゆっくりとお部屋でお食事ができる、というのは
湯治滞在のいいところ、だと思っているからです。
そしてお部屋食が大好きなお客様が、
たくさんおいでなことも
もちろん知っています。
湯治滞在のお客様が
食事する場所が選べるようになった、
選択肢が広がったという感じです。
さて、食事処をどうやって広げるか?
続く。